シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、ベトナム、フィリピン等の東南アジア10カ国が加盟する東南アジア諸国連合(以下ASEAN)は、世界の3.3%を占める449万平方キロメートルの面積に、世界の8.6%である6億7,333万人の人口を抱えていることから、多くの市場において今後の成長が期待されています。(※1)
しかし、一言でASEAN市場と言っても、市場構造や流通チャネルは国ごとに事情が大きく異なり、それぞれに異なったアプローチが必要となります。今回は食品小売市場を例に、流通チャネルからASEAN市場の多様性を見てみます。
ASEAN市場を読み解く中で、重要なキーワードの一つが伝統的市場(Traditional Trade)と近代的市場(Modern Trade)です。伝統的市場(以下TT)は、個人商店や市場を指し、近代的市場(以下MT)はスーパーマーケットや大型ショッピングモールを指します。一般的には、生活水準が上がるにつれ、TTで日々の買い物をしていた消費者は、MTで食品や日用品をまとめ買いをするようになると言われています。MTの成立のためには、小売側ではコールドチェーンやトレーサビリティの確立が、消費者側では一定水準の所得や冷蔵・冷凍家電等が必要になります。
経済成長に伴い、TTからMTへの移行はどのASEAN諸国でも進んでいるものの、国によって状況が大きく異なるのは注目すべき点です。小売市場の7割以上がMTであるシンガポールを筆頭に、タイが5割、マレーシアが4割と続き、いわゆる新興ASEANの主要3国であるフィリピンは35%、インドネシアが2割、ベトナムは6%です。(※2)日本からの輸出農産物は、TTに入り込むことは事実上困難なので、MTのパイに食い込む必要があります。
人口だけを見ると、2億8千万人のインドネシア、1億1千万人のフィリピン、1億人のベトナムは、平均年齢も若く、所得も向上していることから、売り手側に非常に魅力的な市場に見えます。一方で、とりわけ農産品輸出については、ともすれば輸入規制や手続、消費者の嗜好が話題に上りがちですが、その巨大な人口を十分にカバーできるだけの流通チャネルが整っているかどうかも、販売戦略を考える上で入念に検討する必要がありそうです。
シンガポール事務所 所長補佐 中村
参照先
(※1)https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000127169.pdf
(※2)https://www.mizuho-fg.co.jp/company/activity/onethinktank/vol012/pdf/14.pdf