シンガポールにおいて日本の119に当たる電話番号は995であり、救急や消防を担う政府組織の名称はSCDF(Singapore Civil Defense Force)です。SCDFが2022年に受けた救急要請は256,837件と過去最高の件数になりました。シンガポールの救急要請件数は、人口増加や高齢化の影響によって、1998年以降コロナ禍の影響を受けた2020年を除いて増加し続けています。また、緊急でないケースや誤通報の件数も全体に比例して増加しており、日本と同様に医療資源の有効活用の観点から問題となっています。
このような事態に対応するため、SCDFは2019年4月以降、救急車両が出場して非緊急症例と判断した場合は医療機関に搬送せず、自力での通院か民間の搬送サービスを案内するようになりました。さらに2023年3月以降は通報の時点で非緊急症例と判断された場合は救急車両の出場自体を行わないようになりました。
なお、緊急症例の搬送は無料ですが、医療機関搬送後に緊急症例に該当しないと医師が判断した場合は搬送料として274シンガポールドル(約29,000円)が請求されます。非緊急症例とされる歯痛、下痢、咳、頭痛等については、かかりつけ医やクリニックに行くことが推奨されています。どうしても病院に行きたい場合は自力で行くか、専用の番号である1777 に電話して有料の民間救急車を呼ぶことになります。民間救急車の利用にかかる平均金額は公開されており、例えば救急外来への搬送の場合、日中は120シンガポールドル(約13,000円)がかかります。
また、SCDFは適正な救急要請を定着させるための広報にも力を入れています。特に2021年9月から2022年1月にかけて行われた大規模なキャンペーンでは、ラジオ、パンフレット、屋外広告、SNS等を活用し、有名なクリエイターが製作に関わった2本の広報動画はそれぞれ視聴数が200万回を越えるなど、国民の意識啓発の一助となりました。
シンガポール事務所 所長補佐 瀬戸口
(参考資料)
※1:SCDF「Fire, EMS and Enforcement Statistics」
https://www.scdf.gov.sg/home/about-us/media-room/statistics
※2:SCDF「SCDF Emergency Medical Services」
https://www.scdf.gov.sg/home/about-us/information-on-ems/scdf-emergency-medical-services
※3:SCDF「Annual Report」
https://www.scdf.gov.sg/home/about-us/media-room/publications/annual-reports
※4:CLAIR「シンガポールの政策-2021年改訂版-」
https://www.clair.or.jp/j/forum/pub/docs/singapore_2021.pdf