シンガポールと聞くと高層ビルが立ち並ぶ光景を思い描かれる方もいるかもしれませんが、実は緑が国土の約3分の1を覆う「グリーン・シティ」です。
2021年2月にシンガポール政府が発表した環境に関する基本方針である「シンガポール・グリーンプラン2030」において、取り組むべき課題として「自然の中の都市の創出(City in Nature)」が掲げられており、様々な取組がなされています。
今回は、シンガポールの緑化政策の具体的な施策を担う国立公園庁(National Parks Board)の、2030年に向けた5つの戦略等について紹介します。
1自然公園ネットワークの拡大
シンガポールには4つの自然保護区があり、シンガポールの生態系を保護しています。これらの保護区を都市化の影響から守り、補完的な生息地を作り出すため、周囲に自然公園が整備されており、2030年までに200haの新たな公園を整備することを目指しています。
2公園・庭園の自然化
人々に自然をより身近に感じてもらうため、2026年までに様々な方法(例えばコンクリートの舗装水路を自然な形の川にする等)で自然を取り入れ、300ha以上の公園・庭園を楽しめるようにすることを目指しています。また、2030年までにシンガポール全土で30のTherapeutic Garden(*1)を作ることとし、認知症やADHD等の症状がある人々にも使っていただくことを想定しています。その他、2030年までに100種の植物と60種の動物の回復計画が実行され、シンガポール全土で80haの森林・海・沿岸の生息地が復元されることを目指しています。
3都市部での自然の復元
2030年までに200haの高層ビルの緑化を目指しています。また、工業地帯においても、2030年までに少なくとも17万本以上の植樹を目指しています。
4緑のスペースの結合
自然保護区や公園と庭園などを結ぶネットワークを構築し、2030年までにNature Way(*2)を300km、Park Connectorを500kmまで増やし、全ての居住地が公園から徒歩10分の距離にあることを目指しています。
5獣医師の能力強化及び野生動物の管理強化
2022年2月に設置された野生動物のリハビリテーションセンターでは、民間団体と連携し、負傷した動物のリハビリ・野生復帰をすることで生物多様性の保全へ貢献するとともに、野生動物の研究強化などに努めています。
2030年目標に向けて様々な施策を展開している国立公園庁ですが、週末には、様々な公園や自然保護区でワークショップやガイドツアーを開催しています。無料のイベントも多く、執筆者が参加したツアーでは、公園を歩きながらシンガポールの動植物について学ぶことができました。シンガポールへお越しの際は、その豊かな緑にもぜひ注目ください。
シンガポール事務所 所長補佐 大辻
*1 Therapeutic Garden:香りや色のある植物など感覚に作用する療法的な要素を取り入れ、科学的な研究に基づいて設計された庭園。車椅子を使用しても使いやすいこと等複数の原則を満たすように作られている。
*2 Nature Way:多様な生物(鳥類や蝶など)を支えるため、低木から高木まで様々な種類の植物を植えた道路
(参考資料)
National Parks Board (NParks) of Singapore
https://www.nparks.gov.sg/about-us/city-in-nature