人口減少が進み、日本国内の食品市場規模が縮小する見込みとなっている一方、人口増加や経済成長に伴い、世界の飲食料市場規模、特にアジアの市場規模は大きく拡大する見込みとなっています。2021年時点で、主要な輸出青果物はASEAN10か国中、ラオスとミャンマーを除く計8か国向けに輸出されています。品目ごとに見ていくと、最も輸出額が大きくなっているのはかんしょであり、世界へのかんしょの輸出額の半分以上をASEAN地域が占めています。特にタイに向けた輸出額はASEAN域内への輸出額の6割超を占めています。そのほか、かきの輸出額が世界の輸出額の4割超となっており、この2品目はASEANが主要な輸出先となっています。各国の状況を見ると、シンガポール、マレーシアへは主要青果物の全品目が輸出されており、タイへもほぼ全ての品目が輸出されています。また、ベトナム、フィリピン等は、輸入規制により輸出品目が限られている一方、カンボジアへは額は少額ながらも多くの品目が輸出されています。
こうした中、政府においても、「農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律」に基づき、省庁横断的な組織である「農林水産物・食品輸出本部」が2020年4月に設置され、輸出拡大に向けた環境整備のため、有望な輸出先国・地域に、在外公館、JETRO海外事務所等を主な構成員とする輸出事業者を支援する輸出支援プラットフォームの設置を進めています。東南アジアにおいても、2022年5月にタイにプラットフォームが立ち上げられたのを皮切りに、シンガポール、ベトナムと計3か国に設立され、シンガポールでは、当事務所もコアメンバーとして参画しています。
地方自治体でも、輸出拡大に向けた取組は進められており、約8割の都道府県が農林水産物・食品の輸出促進について戦略や計画を持っていると回答しています(※1)。当事務所所管国内においても、新型コロナウイルス感染症の流行により一時的に下火になっていた各自治体の現地でのプロモーション活動が活発化してきており、首長によるトップセールスや見本市への出展、小売業者と連携した販促事業のほか、各自治体の駐在員事務所が、ご当地対決をイメージして各自治体の産品を紹介するイベントの実施や、料理教室での自治体の食材や観光情報のPRなど、工夫を凝らした取組も行われています。
タイやベトナムの現地小売業者を訪問したところ、日本産青果物は、安心・安全なイメージと品質への信頼が高いことが挙げられた一方で、他国産に比べて倍以上の高価なものが多く、価格面での競争力が弱いという声が多くあり、広域で協力して輸出量を増やすことで物流費用を低減したり、「オールジャパン」での発信ができればより市場に食い込むことができるではないかという意見も伺いました。
シンガポール事務所では、小売店や卸事業者へのヒアリング等を踏まえ、この春にASEANでの海外販路開拓の現状を紹介するクレアレポート「ASEANにおける青果物輸出の現状」の刊行を予定しております。同レポートが皆様の取り組みの一助となれば幸いです。
※1 農林水産省食料産業局輸出促進課「都道府県の輸出促進の取組に関するアンケート」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/e_enkatu/attach/pdf/index-9.pdf
シンガポール事務所 所長補佐 田澤