2014年5月19日、東京の都道府県会館において開催したクレアシンガポール事務所主催、海外経済セミナーの報告第2回目は「観光・物産プロモーション・インフラ・中小企業進出支援等に向けた最新の取組状況」をテーマとしたパネルディスカッションについてお伝えします。
パネルディスカッションは自治体のシンガポール駐在経験者の参加により行われました。参加者が取り組んだ中小企業進出支援やインフラの輸出、観光・物産プロモーションを紹介します。
長野県では製造業、特に精密機械工業が盛んであるため、クレアシンガポール事務所長野県駐在員は県内中小企業の海外進出支援・販路開拓支援に力を入れており、例えばインドで開催された自動車部品の展示会やインドネシアで開催された工作機械の展示会出展のサポートを行いました。中小企業が単独で出展しても、目立つのは難しいですが、「長野県」でブースを構えることで、PR効果がありました。
静岡県東南アジア駐在員事務所は県からのビジネスミッション団の派遣や、現地の商談会出展支援など県内企業の海外展開支援を行っています。また、昨年度からビジネスインターンプログラムで学生の受入れにも取り組んでいます。
北九州市については、インフラの輸出に重点を置いて長年国際協力に取り組んでおり、海外の行政機関と信頼関係を築きながら企業の海外展開の支援を行っています。例えばインドネシアのスラバヤ市におけるゴミのリサイクル型廃棄物中間処理施設について、スラバヤ市にある「DEPO」と呼ばれるゴミ集積所に北九州のゴミ処理企業が参入し、労働環境の改善や企業理念も教えるなど、人々のマインドを変えるような取り組みを行っています。
高知県シンガポール事務所は県内企業の現地でのビジネス支援とフォローアップ等に取り組んでいます。高知県は園芸大国ですので、農業資材や建築資材関係の輸入に対するサポートの要望があります。生姜やミョウガなどの生産が盛んで、それらの生産に必要な資材の買い付けや、品質検査の手伝いなどをスリランカで行いました。また同国港湾庁へ商談に行き、海上クレーンなど機械製品の売り込みなど支援を行いました。
昨年富士山が世界遺産に登録されましたが、静岡県内在住の映像ディレクターの方が、YouTube等に載せるような3分程度の富士山周辺自治体の観光プロモーションビデオを制作しました。
北九州市の則松前クレアシンガポール事務所所長補佐からは、観光について特徴ある取組を行っている九州観光推進機構と岐阜県の事例が紹介されました。
シンガポールにおいて日本の自治体名は主要都市以外ほとんど知られていませんが、「九州観光推進機構」は2009年頃から「九州」として広域的な観光PRを続けてきたことにより、現在では東京や大阪などのゴールデンルート、北海道に次いで、「九州」が認知されています。
岐阜県はインバウンドに関して先進的な取り組みを行っています。シンガポール人は旅行を通じてどういった経験ができるかという点を重視しており、目的地を決める前にそういった情報が手に入らないとモチベーションに繋がりません。また訪日旅行で大きな問題となるのが言葉の問題で、シンガポール人は、英語、中国語を話し、多言語でありながら、日本ではなかなか通じないことがネックとなっています。
そこで岐阜県は、NEXCO中日本と協力してレンタカーにETCやナビの英語版を導入して、中部国際空港(セントレア)から車で自由に田舎を旅することができるというプランを作り、非常に好評となりました。今では「高山」の地名はシンガポール人の間で広く知られています。
静岡県東南アジア駐在員事務所はシンガポールでの静岡の知名度を上げるため、日本語スピーチコンテストへの協賛や、シンガポール日本文化協会とタイアップしたイベントを実施しました。また、タイで行われた留学フェアにも静岡県で出展しました。またインドネシアにおける天皇誕生日の祝賀会の際には緑茶のプロモーションなども行いました。更にシンガポールでは煎茶の淹れ方を教える講座などを静岡の企業と一緒になって実施しています。
ここで高知県の県産品売り込み成功事例を紹介したいと思います。高知県のゆずの生産量は全国の50%を占めており、全国1位の生産地となっています。2009年のゆずが大豊作となったことをきっかけに、海外に売り込みを始めました。
2010年のシンガポールの見本市「Food and Hotel Asia」では、ゆずだけを売り込む「高知県ゆずブース」を開設し、JAや加工品メーカー、県職員、物流商社の総勢約20人で売り込みをかけました。ゆずの香りに引き寄せられ、多くの方がブースを訪れました。高知県の取り組みで特筆すべきは展示会で名刺交換した相手を、その後丁寧にフォローアップしたことです。その中に地元大手飲料会社「Marigold」があり、1年の交渉の結果、Peel Freshというシリーズに高知県産のゆずを使ったジュースを新しく加え、販売してもらうことに成功しました。「ゆず」は、シンガポール人の間でほとんど知られていませんでしたが、Marigoldのゆずジュースの影響で一気に知名度が上がり、ゆずジュースは現在シンガポールのほとんどのスーパーに流通しています。
更にその後のフォローアップで、シンガポールのスターバックスにOEM (Original Design Manufacturer)でケーキを納めている会社と出会い、ゆず皮とゆず果汁を使って作ったケーキがスターバックスの一部の店舗で販売されることになりました。
他にも展示会で出会ったシンガポールの有名シェフに企画をお願いし、レストランやホテルのシェフを招いたゆずの賞味会を行いました。高知県シンガポール事務所は現地の人脈と信頼関係を築き、それを継続させていくこと大切にしています。
今回のパネルディスカッションにおける登壇者は以下のとおりです
シンガポールでは今回ご紹介した自治体以外にも、多くの自治体が観光・物産プロモーション等を実施していますが、プロモーションを行った後にフォローアップまでをいかに行うかということは非常に重要なポイントであると感じました。継続性を持たせるために、現地の人々とのコミュニケーションは欠かすことが出来ません。もちろん日本の仕事のやり方とは違う事もあり、時にはうまくいかないこともあるかもしれませんが、そのような時にこそ新しい海外展開のアイデアが生まれるかもしれません。
シンガポールでは日本のユニークな食文化や観光資源は幅広い層に受け入れられています。ただ、そのまま全てが受け入れられるという訳ではなく、現地の人々の好む形で提供できるよう、十分な工夫が必要であると感じました。
(宮﨑所長補佐 佐賀県派遣)