2015年6月16日、クレアシンガポール事務所では東京の都道府県会館において、シンガポール政府や民間企業、自治体のシンガポール駐在経験者を招き、自治体が海外展開する上で参考となる情報を提供するセミナーを開催しました。
セミナー報告その②では、熊本県、岐阜県、愛媛県のシンガポール駐在経験者によるパネルディスカッションの内容をご紹介します。
愛媛県と伊予銀行は2012年10月に「地域経済の持続的な発展に向けた連携・協力協定」を締結し、特に「海外支店等を活用した海外展開及び国際交流の支援」を重視した活動を行っています。伊予銀行の持つシンガポール、香港、上海、ニューヨークの海外4拠点を活用して、県と地方銀行が一体となった県産品の販路開拓や観光誘客に取り組んでおり、シンガポールでは2013年度から愛媛県職員が伊予銀行の駐在員事務所に出向しています。 登壇した一色氏は、シンガポールの国際見本市で今治タオル生産者の販路拡大支援と今治ブランド全体の知名度向上に取り組んだ事例を挙げ、銀行が持つ幅広い情報や人脈を駆使すれば、精度の高いビジネスマッチングとマッチング後のきめ細かなフォローアップも可能になると述べ、自治体‐地銀間連携の有効性を強調しました。
熊本県はクレアの駐在員制度を活用して、2013年度からクレアシンガポール事務所内に駐在員を置いています。アジア各地で「くまモン」を活用した観光物産PRを推進しており、くまモン人気が高く県産品の最大の輸出先でもある香港では、熊本発信の拠点「くまもとカフェ」をオープンさせるなど成果を上げています。
また、ハラール認証を取得した県産和牛のインドネシア輸出にも取り組み、2015年1月には知事トップセールスを実施しました。農林水産省、日本大使館、JETRO等と牛肉の輸出解禁に向けて連携してきた板東氏は、特に国による支援が大きかったと当時を振り返りました。
さらに、県産品の輸出拡大のため各国を奔走した自身の経験から、「JAPAN」の売場が増えない限り、各自治体間の競争は椅子取りゲームのようになってしまうと考えています。全体のパイを拡大させるために、まずは国による輸出障壁のクリアや手続きの明確化、簡素化などの地ならしが必要であり、日本産食品の輸出拡大には「JAPAN」の総合力がカギになると、オールジャパンでの取組みの必要性についても言及がありました。
加藤氏はJNTOシンガポール事務所に出向してオールジャパンの観光誘客に携わりながら、岐阜県の海外戦略にも関わってきました。岐阜県では省庁横断的な組織の設立を皮切りに、アセアンを中心に観光、食、モノの「三位一体」に加えて「官民連携」による効果的なプロモーションを行いました。その結果、日本ではブランドイメージ36位の岐阜県ですが、2014年のシンガポール人の延べ宿泊者数は全国10位、マレーシアとタイは9位と人気の観光地のひとつとなっているほか、飛騨牛などの農産物輸出量も大きく伸びています。
さらに近年は難易度が高いといわれる伝統工芸品を中心としたモノの分野の海外進出を本格化させています。例えば、日本の女性が中国で素晴らしいデザインのドレスを見つけたとしても、赤や黄色の原色のものしかなければ買わないのと同様に、日本の工芸品は技術力は素晴らしくても日本人の感覚だけでデザインしていることが多いため、外国人には魅力的に映りません。そこで岐阜県は、佐賀県の有田焼にシンガポール風デザインを施して現地で大きな反響を呼んだシンガポール人デザイナー・エドウィン氏と2014年に包括提携を結びました。エドウィン氏を岐阜に招待して工芸品の工場を見てもらうだけでなく、高山や白川郷も案内して飛騨牛も食べてもらい、岐阜の文化を理解したうえでモノづくりに反映してもらう戦略で、今年度はこのスキームを欧州にも展開しています。
今回のパネルディスカッションでは、愛媛県による自治体と地方銀行との連携、熊本県によるゆるキャラの活用や国との連携、岐阜県による三位一体と官民連携に加えた海外デザイナーとの連携など様々な連携事例が紹介されました。
来場者からのアンケート結果も好評で、私たちも海外の生の声に対するニーズが高いことを再認識しました。シンガポール事務所ではこのセミナーのような取組みを今後も継続・充実させて、地方自治体が海外展開するためのヒントとなる情報を積極的に発信していきます。
(与那嶺所長補佐 沖縄県派遣)
「東南アジアにおける自治体の海外展開の方策について」
~ASEAN最新の動向と様々な連携事例から今後の可能性を探る〜
開催日:2015年6月16日(火)
場 所:都道府県会館4階 402会議室(東京都千代田区平河町2-6-3)
主 催:一般財団法人 自治体国際化協会シンガポール事務所
参加者:地方自治体及び関係機関職員等(47名)
1 講演(1)「アジアへ、シンガポールから。」
シンガポール国際企業庁 北アジア・太平洋グループ統括部長 リー・ホイリョン
2 講演(2)「海外における観光・物産プロモーションについて」
株式会社JTBグローバルマーケティング&トラベル グローバルマーケティング
2部 部長(前・JTBシンガポール・アウトバウンド支店 支店長)小縣 力郎
3 パネルディスカッション
①「クレアシンガポール事務所の所管国における自治体の活動状況について」
②「観光・物産プロモーション・中小企業進出支援等に向けた最新の取組状況」
③「海外展開に向けた自治体の体制づくりと今後の東南アジア市場での展開の可能性」
ファシリテーター:足達 雅英 (一財)自治体国際化協会シンガポール事務所長(当時)
パネリスト:①熊本県農林水産部農業研究センター 次長 板東 良明(前・クレアシンガポール事務所 熊本県駐在員)
②岐阜県商工労働部地域産業課海外展開促進係 係長 加藤 英彦(前・日本政府観光局(JNTO)シンガポール事務所 次長)
③愛媛県営業本部 営業副課長 一色 拓也(前・伊予銀行シンガポール駐在員事務所 所長代理)