クレアシンガポール事務所では、日本の自治体職員が、先進的な施策で注目を集めるシンガポールにおいて、地方自治体における政策の企画立案に必要な知識を習得することを目的にシンガポール政策研修プログラムを実施しています。
2015年6月22日(月)から23日(火)の2日間にわたって開催した政策研修コースでは、日本からも自治体職員が参加し、シンガポールの政策立案における基本理念に対する理解を深めるため、アジアでトップクラスのシンガポール国立大学リークアンユー公共政策大学院から、シンガポール行政に精通した専門講師を招き、シンガポールが推進する公共政策に関する専門講義や意見交換、視察等を盛り込んだ内容とし、普段では聞くことのできない実情を直に伺うことができました。
本稿では、1日目に実施した、「シンガポールの政策決定・実施プロセス、公務員制度」に関する専門講義の内容をお伝えします。
リークアンユー公共政策大学院特別研究員のラム・チュアン・レオン氏から標記内容について講義いただきました。ラム氏は財務省、環境省、国家開発省、通商産業省、情報芸術省の事務次官、首相の首席秘書官などを歴任されており、シンガポールの政策決定・実施プロセス、公務員制度に精通されています。
シンガポールの行政組織は、中央政府と地方政府の区別がなく、16の省庁と100以上の法定機関で構成されています。国家公務員の総数は82,291人(法定機関を除く)で国民全体の4%と小さな政府として運営されており、約半数は国として重要視している教育機関の教師が占めています。汚職の撲滅や優秀な公務員を確保するため民間と同様の高い給与体系にしており、給与は民間よりもやや低めとなっていますが、職員に多くの研修や教育の機会を与え、モチベーションやスキルの向上を図っています。
また、公務員評価制度も導入しており、上司による業績評価と潜在能力評価により、月例給以外に支給されるボーナス(上限は月例給12月分)に反映しています。
国家公務員全体の0.3%にあたる250名~300名は、個々の評価と特別な研修プログラムを経てエリート公務員として選抜され、行政員(Administrative Officer)として育成されます。行政員の大半は、政府の奨学金制度を利用して国内外の大学で勉強しており、その際には6年間公務員として勤務する義務があります。
シンガポールの政策決定プロセスは非常に迅速であり、理由は大きく2つあります。第1には、小さな都市国家であることから、上級公務員が重要な政策課題を共有しており、意思統一が早いこと、第2には、省庁を跨ぐ人事ローテーションの効果で、横断的な政策決定が行えるよう、省庁間の連携体制が強いことが挙げられます。その政策立案にとって重要な指針は、「競争力の持続」と「自由市場への信頼確保」です。
例えば、福祉政策については、要保護者に対して単なる金銭給付ではなく、就労を通して自立支援を促す「ワークフェア」を重要視しています。そこには、早い経済成長のペースを保つからこそ、貧困を生じさせないという考え方があります。
なお、ホームレスが存在しないのは、国民ほぼ全員に住居が行き渡っているハウジング政策の成功が要因と言えるでしょう。
シンガポールは日本と同様に少子高齢化を迎えつつあり、現在65歳以上の高齢者1人を支える20~64歳の人数は4.8人ですが、2030年には2.1人になると見込まれています。建国当初から1981年にかけては1家庭で子供は2人までが良いとする「Stop at Two」の政策を進めてきましたが、総人口の維持に必要な出生率を割り込んだことで、政策の転換が図られ、出生増進を目指す施策が進められてきました。社会的統合や所得格差も課題となる中で、2012年からは児童手当や税金控除、生殖医療補助など金銭的支援や、両親の育休や有給取得など育児環境整備が図るなど、少子化対策の充実を図っています。
次回は、2日目に実施した専門講義(都市計画、陸上交通)の内容をお届けします。
(佐々木所長補佐 札幌市派遣)
(梅澤所長補佐 長崎県長崎市派遣)
(小暮所長補佐 東京都派遣)