クレアシンガポール事務所では、先進的な施策で注目を集めるシンガポールにおいて、日本の自治体職員が、政策の企画立案に必要な知識を習得することを目的にシンガポール政策研修プログラムを実施しています。
前号に引き続き、2015年6月22日(月)から23日(火)の2日間にわたって開催した政策研修コース2日目の「シンガポールの都市計画の概要、陸上交通政策」に関する専門講義の内容をお伝えします。
リー・クアンユー公共政策大学院准教授のポール・バーター氏による講義を行いました。バーター氏はシンガポールやマレーシアをはじめとしたアジア各国の交通政策のスペシャリストです。
1963年以前の独立前の時期のシンガポールは、都市部以外は未整備であり、人口の約半数が貧困者という状況でした。その一方で、マレー半島の入口として人と物の往来は活発でした。
1959年にリー・クアンユーが政権につき、富裕層から低所得者層へ土地を分配する施策を進めることによって住環境を改善し、現在までに国民と永住権取得者の80%以上が住宅を購入することが可能となっています。ここまで住宅施策が進んだ背景としては、1966年に公益のために強制的に土地を国有化できる土地収用法が制定されたこと、1968年に住宅の購入資金に中央積立基金(CPF:Central Provident Fund)を充てることができるようになり、無理なく住宅を購入できるようになったことなどが挙げられます。他方、地域のスラム化などによってまちの景観が損われないように、古くなった住宅を頻繁にリノベーションしたり、一括取り壊しも実施しています。リノベーションや一括取り壊しについては、必ずしも全ての住民の同意を得る必要がないことから、迅速に進めることが可能となっています。
1970年代初期に国民の所得が増え、車両の購入が増加しましたが、渋滞などの問題を解消するために、車両所有と車両利用を規制し、未整備であった公共交通機関の整備を進める必要性が生じました。
1975年に都市部の交通量を規制するために、入域許可制度(ALS:Area Licensing Scheme)が導入され、さらに1998 年から電子式車両通行料収受(ERP:Electronic Road Pricing)システムが導入されています。1990年からは、毎年、車両台数の増加の許容範囲を決めた上で自動車所有権証書(COE:Certificate of Entitlement)を発行する制度が導入されました。しかし、この制度では、廃棄されている車両の数が正確に把握できないため、実際の車両総数が不明である点が課題となっています。
1973年から政府がバス運賃の制定だけでなくバス会社の経営に責任を持つようになったことから、運賃とサービスの質のバランスがとられ、うまく機能しはじめました。また、1987年に導入された大量高速輸送システム(MRT:Mass Rapid Transport)は、インフラ経費は政府が負担し、運用は民間に任されていることから、運賃を低く抑えることに成功しています。シンガポールでは、他の東南アジア諸国と比べ、中間層の公共交通機関の利用率が非常に高いのが特徴です。
シンガポール政府は、高層建築物への駐車場の併設を義務付けており、これは世界的にも極めて珍しいことだそうです。
2000年代では、人口の増加による公共交通機関の混雑、自動車所有権証書発行数の増加による渋滞など、交通事情の悪化が問題となり、総選挙で大きな論点となりました。今後は、車を所有しない国民のためにMRTやバス、タクシーに加え、カーシェアリングや自転車の活用も取り入れて、移動手段の選択肢を増やしていくことが重要な課題となっています。また、電子式車両通行料収受システムについても、衛星技術等を活用して走行距離に対して課金できるようにするなどのシステムの改善が進められています。
次回は、2日目に実施したサイトビジット(プンゴル・エコタウン)の内容をお届けします。
(佐々木所長補佐 札幌市派遣)
(梅澤所長補佐 長崎県長崎市派遣)
(小暮所長補佐 東京都派遣)