クアラルンプール市は人口約160万を誇るマレーシアの首都で東南アジアの中でも経済発展が著しい地域のひとつです。近年は経済発展に比例するように市内のごみが増え、処理の適正化が課題になっています。当事務所が実施する専門家派遣事業において、2014年12月3日(水)から11日(木)まで、大分県別府市の職員が廃棄物処理の専門家としてクアラルンプール市へ派遣されました。
マレーシアは全土で2015年9月よりゴミを分別して収集することを発表しました。このためクアラルンプール市では3R(減量、再利用、リサイクル)の取り組みに注目が集まっており市都市計画局の中にLA21(ローカルアジェンダ21)という協議会を設け、市民参加型の組織として3Rの啓発活動を実施しています。
まず専門家は協議会メンバーでもある廃棄物収集会社やホテル、市民参加のリサイクルの取り組みを視察し、現状の確認を行いました。
クアラルンプール市の一般廃棄物はAlamFloraという民間会社が委託を受けて収集を行っています。今回はAlamFlora本社に伺い、事業説明を受けました。クアラルンプール市ではゴミは分別されず各家庭から排出されます。 AlamFloraはそのゴミをすべて回収していました。日本でも多く取り入れられているGPS機能を用いたゴミ収集車の位置確認と収集漏れのチェックが行われており近代的なシステムの下で事業が行われている印象でしたが、専門家よりクアラルンプール市から排出されるゴミの総量について質問があり、把握していないという回答がありました。3R運動を行う上で必要になる根拠数字が欠落しているという問題が浮き彫りになりました。
視察したシャングリラホテルでは排出される食品残渣をコンポスト(肥料化)する取組が行われていました。肥料については施設内の花壇などの肥料に利用しているとの事でした。専門家からはホテルで提供される食材についてもこの肥料を利用して栽培できれば循環型社会のモデルになる取り組みになるとのアドバイスがありました。
市民参加型のリサイクルの取組としてコミュニティが行っているバナー広告を再利用したバッグ制作の取り組みを視察しました。ここでは市で使用されたバナーを貰い受け、地域住民がバッグやエプロンなどを作成していました。作成するために必要なミシンなどは市よりコミュニティに貸与されていました。またバッグなどのリサイクル品の売上は9割が製作者、残りはコミュニティに支払われていました。専門家からはこれは非常に有意義な取り組みであるため、普及させるために他地域での事業説明などが積極的に実施されるよう、行政によるサポートの仕組みを構築すべきであるというアドバイスがありました。
専門家は視察結果を踏まえて市職員やLA21メンバーを対象に講義を行いました。
まず専門家から日本におけるゴミ処理の概要について説明を行いました。日本ではゴミ処理は市町村に処理責任があり、その処理方法はある程度市町村に委ねられいます。専門家は別府市をモデルにしてゴミの収集体系、分別品目などの説明を行いました。特に専門家が持参したゴミ収集カレンダーを説明した際には多言語化(英語、中国語、韓国語)や絵を使った解説など非常にわかりやすい内容に関心が集まっていました。またマレーシアでは土地の所有者がゴミ処理に関する税金を支払っていますがゴミの排出が少なくても多くの土地を持っている場合、多額の税金を納める必要があることの問題点を指摘し、日本で多くの市町村が取り入れている指定ゴミ袋制度について説明を行いました。参加者からは非常に合理的なゴミ収集料の徴収方法であるとの声が寄せられました。
次に別府市で取り組んでいるゴミ減量の取り組みについて説明を行いました。リユース品の情報交換掲示板制度や地域が行うゴミ減量を推進する事業への補助金制度等、ゴミ処理という市民メリットが見えづらいものにインセンティブをどのように与えているかの説明を行いました。
始めに専門家から日本で行われているリサイクルの取り組みについて説明がありました。日本のリサイクルの法体系やコンポスト等の取り組み状況の説明の後、市民や企業にインセンティブを与え協力体系を構築するのかの説明をおこないました。
その後、参加者をグループに分け、ゴミ減量、リサイクルをクアラルンプール市で実施する方法について討論してもらいました。参加者からは積極的な意見交換が実施され専門家からもこのような話し合いの場を多く持ち意見を共有していくことは非常に大事なことであるとアドバイスがありました。
最終日の総括の場で、専門家から意識改革と3Rの促進を目指してパイロット地区を設置しその地域で市が理想とするゴミ分別や減量の取組を行ってはどうかという提言がありました。取組の中で①分別の種類と品目決定(可燃物・不燃物・資源物)②収集日・排出と収集方法・リサイクルと処分方法③パイロット地区への住民説明(意義と意味)④データの精査⑤修正と今後の展開を実施し、最終的には全市的な取り組みにしていくというステップが提言されました。この提言に対してクアラルンプール市からは即効性のある取組に関する質問がありましたが、専門家からは廃棄物の問題に即効性のある対策は無く、一歩一歩着実に計画を実行する事が重要であると説明されました。参加者は廃棄物処理の難しさを再認識し、日本での取組を良く理解したようでした。
今後もクレアでは、日本の自治体職員が持つ知識と経験を海外自治体に伝えることによって交流・協力関係を深めていきたいと思います。
【自治体国際協力専門家派遣事業に関するお問い合わせ先】
一般財団法人自治体国際化協会交流支援部経済交流課
電話:03-5213-1726
(下村所長補佐 愛知県田原市派遣)