2017年10月2日(月)~5日(木)までの4日間、マレーシアのクアラルンプール市で、自治体国際協力専門家派遣事業を実施しました。
自治体国際協力専門家派遣事業は、海外の自治体などの行政資質と技術力の向上、人材の育成に資するとともに、日本の地方自治体と海外の地方自治体との友好協力関係を強化するため、日本の自治体職員を現地に派遣し、講義や実技を通して日本の地方自治体が持つ行政のノウハウを伝える事業です。
クアラルンプール市とその周辺では、住宅や交通などのインフラの開発が郊外に広がっています。実際に市内を移動していると、建築中の高いビルや道路がたくさん目に入ってきました。市が運営する市場も再開発に伴い移転や建て替えが進められています。市は、移転や建て替えを機に市場の魅力を高めるため、次の問題点について改善したいと考え、クレアに専門家の派遣を要望しました。
・市場の場所、構成、デザイン(区画)について
・市場の清潔さの保持及び衛生管理について
・市場の管理コストについて
そこでクレアでは、京都府の協力を得て、市場管理をご担当されている職員を専門家としてクアラルンプール市に派遣したものです。
クアラルンプール市による市場の現状と管理、運営体制の概要についての説明のあと、市場の視察を行いました。最初の視察先は野菜・果物・水産品を扱う卸売市場Pasar Borong Kuala Lumpurでした。この市場には448業者もの店舗が入っており、一つの市場に1~3社程度しか卸売業者が入っていない京都府とは大きく違います。
また、卸売市場とはいうものの一般の消費者も買うことができる点も違いの一つです。視察にあたり、卸売業者の組合の代表の方々と、野菜と水産物の販売区画や排水の方法などの施設面の整備のほか、ルールを守らない業者への対応など、現場で抱える問題について率直な意見交換が行われました。
このほかに、フードコートや立派なホールを備えた市場、住宅とともに移転し新築された市場、加工品から衣料品、雑貨まで幅広く取り扱いをしている一般消費者向け市場など、生鮮食品を取り扱っている三つの市場を視察しました。
クアラルンプール市からの現状説明と4つの市場の視察を踏まえて専門家による講義が行われました。講義では、卸売市場の低温化やコールドチェーン化、物流動線の効率化など品質や衛生管理のための施設整備と管理、運営方法について説明しました。さらに、生産者と消費者のニーズを捉えて市場の活性化を図るために実施している京野菜フェスティバルなどの関連事業についても言及しました。質疑応答では、ハード、ソフト両面から多様な質問がありましたが、特に話題が「市場関係者の意識改革」に及ぶと議論は活発になりました。専門家は、「消費者から、安全、安心、新鮮な市場だと評価してもらうことにより、他の市場に勝てる市場をつくろうという意識のもと、事業者がよく話し合っていくことが大切である。」と助言しました。
また、市が主催するイベントや講習会への参加者が少ないことに対しては、「問題が発生する前に未然に防ぐという意識が大切であることを事業者に理解してもらう取り組みを行ってはどうか。」と提案がなされました。そのほか、HACCP※を活用して作業にかかわる者の意識を高める取り組み事例など、多数の業者を一つにまとめるための工夫について、京都府の事例を紹介しながらアドバイスを行いました。専門家の知見に基づいた話に参加者は意識改革の重要性を再確認するとともに、難しいことではあるが前向きに取り組もうという意欲が伝わってきました。
※HACCPとは、食品の製造・調理の各工程で、食中毒の原因や異物混入の原因になりやすい工程を重点的に管理することで、完成した製品や調理品の安全を確保する衛生管理の方法です。何をどこでどのように管理するかを事業者自らが考え、設定し、実施し、それらの記録・管理をします。
国や制度、しくみが違っても、消費者に良いものを届けたいという市場関係者の思いは同じようです。施設面の整備と違い、意識改革は一人ひとりの気持ちがかかわることから、改善には困難と長い期間を要します。それだけに、専門家の助言が市場関係者の一体感を後押しし、彼らが『消費者に選ばれる市場』をめざして魅力的な市場をつくることが期待されます。
専門家派遣事業は、自治体職員として培ったみなさまの知識と経験が、海外の自治体の課題解決に役立ちます。事業にご興味がある方は、こちらもご覧ください。
自治体国際協力専門家派遣の詳細についてはこちら↓
http://www.clair.or.jp/j/cooperation/special/index.html
(佐々木所長補佐 秋田県派遣)