クレアシンガポール事務所は、2018年1月8日から12日にかけて、タイのナコンパトム県サカティエム町からの要請に基づき、自治体国際協力専門家派遣事業を実施しました。
この事業は、海外の自治体の行政資質と技術力の向上、人材の育成に資するとともに、日本の自治体と海外の自治体との友好協力関係を強化するため、日本の自治体職員を現地に派遣し、講義や実技を通して日本の自治体が持つ行政のノウハウ等を伝える事業です。
ナコンパトム県はバンコクから西へ55キロメートルのところにあります。インドシナ半島において最初にインドからの僧によってお釈迦様の教えがもたらされたとされる仏教伝来の地域であり、世界一の高さを誇る120.45メートルの黄金の仏塔、プラ・パトム・チェディが建立されています。そんな巨大な仏塔のほど近くにあるサカティエム町が今回の事業の舞台です。
サカティエム町は、農業や畜産が盛んな地域です。そんなサカティエム町は、農畜産関係に限らず幅広い分野で日本の自治体との交流を希望しています。交流を開始する前段として、サカティエム町職員も初級レベルの日本語を話すことができ、また、日本文化に関する知識を身につけることで日本の自治体との交流がより円滑になると考えていました。そうした背景の中で、同町から日本語教育・日本文化の指導、紹介について専門家の派遣要請があったため、公募を通じて北海道の公立高校教員を同町へ派遣しました。
今回は町役場職員、地域住民ら約20人を対象に日本語を指導するとともに日本文化の紹介も行いました。
日本語に初めて接する方ばかりであったため、まずは、50音の発音や数字(1~10)の読み方などから指導を開始しました。タイ語ではあまり発音を区別することのない「し」や「つ」を言い分けることに受講者は苦戦している様子でしたが、粘り強く練習した甲斐もあり、しっかりと発音できるまでに至りました。
次のステップとして、簡単な挨拶や自己紹介を中心に指導しました。「おはようございます」、「こんにちは」、「初めまして」といった挨拶に加え、「私は(氏名)です」、「私は(職業)です」、「私はタイの・・・から来ました」といったフレーズも受講者はすぐに習得しました。会話練習の時には、専門家が用意したテキスト内の例文に掲載されていない言葉を受講者が自主的に専門家に尋ねて会話の中に積極的に取り入れるなど、学習意欲の高さを感じました。
こうした姿勢は最後まで継続し、受講者は最終的には肯定文・否定文・疑問文の違いを理解し、簡易な文章であれば話すことができるようになりました。また、5桁の数字も読み書きできるようにもなりました。
①生け花
多才な専門家は、簡単に生け花の歴史をレクチャーした後、「真(しん)・副(そえ)・控(ひかえ)」を基本とする花型法を紹介しました。ただし、「いつでも、どこでも、だれにでも」花を生けてもらいたいという専門家の思いのもと、生け手の自由な思いを花に託して、自分らしく、のびやかに花を生けるよう受講者にアドバイスしました。
受講者は、日本の生け花に対して想像以上に関心を持っていたようで、非常に積極的に花を生けていたことが印象的でした。また、同時に生け花が言葉を越えたコミュニケーションツールの一つになり得ると強く感じました。
②YOSAKOIソーラン
北海道では1992年以降、高知県の「よさこい祭り」と北海道の「ソーラン節」を融合させた「YOSAKOIソーラン祭り」が毎年開催されています。このイベントには全国の様々なチームから参加があるとともに、韓国や台湾といった海外のチームも参加します。そこで、サカティエム町からも「YOSAKOIソーラン祭り」に参加してもらいたいと考えた専門家は、サカティエム町職員や一般市民を対象にYOSAKOIソーランを紹介し、実演指導しました。
最初に参加者に対して専門家が準備したYOSAKOIソーランの動画をスクリーンに流しながら、YOSAKOIソーランの基本動作を一から繰り返し丁寧に説明しました。その後、ダンス希望者を募り、専門家とともに数グループがYOSAKOIソーランを実践しました。タイの伝統的舞踊とは大きく異なる動き・リズムに最初は戸惑っていましたが、参加者は一様にYOSAKOIソーランに強い関心を示し、狙いどおり「6月に札幌市で開催されるYOSAKOIソーラン祭りに是非とも参加したい」、といった意欲を見せる者もいました。
今回の自治体国際協力専門家派遣事業では、タイのサカティエム町という地方都市で日本語の普及や日本文化への理解を促進する機会を提供しました。専門家の派遣を契機に、サカティエム町で日本に対する関心が一層高まるとともに、サカティエム町と清里町との交流が進展することを願ってやみません。
クレアでは、アセアン各国及びインドの自治体の要請を受けて、農業、環境、都市計画などの32分野で、日本の自治体から専門家の派遣を実施しています。専門家として自治体職員の派遣を派遣することは、受け入れ国への知識や技術の伝達だけではなく、自治体にとってもアジア諸国との有意義な情報交換の場および将来の交流のきっかけとなります。また、海外に対する自治体PRにもつながることから、自治体におかれましては、ぜひ本事業の活用をご検討ください。
(参考URL:http://www.clair.or.jp/j/cooperation/special/index.html)
(安田所長補佐 島根県派遣)