クレアシンガポール事務所では、より自治体にとって有意義な現地情報を発信するため、今年度からマレーシアを拠点に活動している広告代理店とコラボし、自治体のインバウンド事例についてご紹介しています。今月号のテーマは「シンガポールおよびマレーシアにおけるメディアの使い方について」です。
Vector Marketing PR Malaysia 金子 美穂
近年、多くの自治体がメディアやインフルエンサーを日本に招いたFAMトリップ(取材ツアー、※文末参照)を行っております。もう何年にもわたって実施している県や、つい最近始めたばかりという県など、進み方はさまざまですが、日本や自治体について知ってもらうにはメディアの力を借りるのが大変効果的です。
シンガポールとマレーシアのメディアには多くの共通点があります。
シンガポール人が見ているメディアはマレーシア人も多くが閲覧しており、その逆ももちろんあります。
どちらも英語の記事がメインで、ほとんどのメディアがウェブサイトやSNSを持っています。英語を話すシンガポール人やマレーシア人は、調べたいことを英語で検索エンジンに打ち込むため、「検索してもらう」ではなく「SNSを使ってターゲットに見てもらわないとならない」というメディアの攻めの姿勢があるからです。
また、シンガポールやマレーシアのメディアは、いわゆる“ペイド”(記者やメディアに少額のお金を渡して記事を書いてもらう商流)の文化はありません。記者が独自の目線で取材をして記事を書き、編集長やチーフエディターの確認と許可を経て露出につながります。
東アジアや東南アジアのいくつかの国では、“ペイド”で多くのメディア露出を得ることが可能ですが、シンガポールやマレーシアはどちらかというと欧米メディアの商流を汲んでおり、「価値のある情報を取材してもらい露出につなげる」か「オフィシャル価格でのメディアタイアップで記事広告を出す」のどちらかしかありません。
プレスリリースやニュースレターをメディアに送っても、それだけでコピーされたかのような露出をとることはほとんどできません。日本ではまだまだプレスリリースやニュースレターを送って、露出(転載)がある、という図式が成り立ちますが、シンガポールやマレーシアでは、リリースやレターをきっかけに、独自の取材を通じて記事化されるのが普通です。
最適なのは、テーマを定め、そのストーリーが深掘りできるような取材を提案することです。
例えば、東北のある県が知名度アップを狙うために欧米メディアの取材を誘致したことがありました。日本政府の施策をニュースフックに、読者の関心も考慮して、酒蔵の深掘り取材をアレンジしました。
国内生産される日本酒のわずか3%しか輸入されていない現状や、競合関係、国際政治の舞台での日本酒の役割などを紹介し、酒蔵のトップに過去20年間の海外輸出に対する取り組みや政府の支援について語ってもらうことで、記事化を容易にし、記者のモチベーションを高めることに成功したのです。
その結果「The New York Times」「The International New York Times」「Japan Times」などの権威ある新聞・WEBメディアに1ページを超える特集記事として掲載されました。
欧米メディアの商流を汲むシンガポールのメディアから、近年はこんな要望が聞こえてくるようになりました。
「インフルエンサーと同じ旅程ではなく、また、あれもこれも回る旅程ではなく、ひとつのテーマを深掘りした取材がしたい」「酒蔵やそれに携わる農家、売り手のこだわりや課題などにフォーカスしたい」「お祭りの情報を載せるのではなく、それにかかわる関係者を取材したい」「スポーツなどのイベントの舞台裏、担当者などを取材したい」
どれも、他のメディアと横並びでは取材できない、独自の視点での記事を希望しているのです。
県の魅力をメディアに取り上げてもらうためにFAMトリップを実施するのはとても効果的なことですが、メディアとインフルエンサー(いわゆるKey Opinion Leader(KOL))は使い分けが大事です。
インフルエンサーを起用する利点は、なんといっても大勢のターゲットの視覚に一瞬に訴えることができる点です。しかし一方で、旅行インフルエンサーからの発信量が多すぎて自分の自治体が埋もれてしまう、インフルエンサー自身が目立ちすぎて観光地が目立たない、本当にターゲットに訴求できているのか不安、という声もあります。
効果的にインフルエンサーから情報発信をするには、まずは自治体の魅力はどこか、何を誰に訴求していきたいかとしっかりとマーケティングすることです。先に訴求ポイントが決まれば、インフルエンサーの年代、性別、民族、記事やSNSの特性から、起用すべき人材が選定できます。そうすれば「とにかくフォロワーが多い人」という選び方にはなりません。フォロワーの数よりも重要なのは、ターゲットが合っているかどうかなのです。
実際にある自治体が、先にフォロワー数の多いインフルエンサーを選び、後から旅程を組んだことがありますが、インフルエンサーのフォロワーと訪問先とがあまりマッチしない雰囲気になったことがありました。
例えば、インフルエンサーは30~40代の富裕層なのに対し、訪問先として20代向けのテーマパークを選んでもあまり効果は期待できません。日本人に教えてもらわないと知らないようなミシュラン星付きのレストランや、静かな景勝地を好むことでしょう。同様に、あまりにも落ち着いた景観の観光地は、若年層にはやや退屈に映る傾向があります。
雑誌や新聞、オンライン記事などのメディアを使った情報発信をしたい場合は、あれもこれも取材してもらうのではなく、1つか2つのテーマを絞り、焦点をあてた深掘り記事を1本釣りすることです。
シンガポールやマレーシアのメディアは、他社と同じ内容で記事を出すことを嫌います。そのため、1社のみ、2社のみなどの少数単位で取材をアレンジし、話ができる担当者をしっかり用意する必要があります。
深掘りされた記事は読みごたえがあり、その地域のブランディングを高めます。それにより、本当のファンを増やすことができ、その地域を訪れた旅行者がまた他の人に勧めるなどして、本当の意味での口コミ拡散や自走につながるのです。
これが長期的な目線でのPRやブランディングとなり、メディアを起用する最大のメリットとなります。
何度かメディアやインフルエンサーを招いたFAMトリップは経験したので少し違う試みがしたい、ブランディングを強化したい、と思案する自治体は、ぜひこのようなメディアの使い方を次のステップに使ってみてはいかがでしょうか。
※FAMトリップ(ファムトリップ)とは観光地の誘致促進のため、ターゲットとする国の旅行事業者やブロガー、メディアなどに現地を視察してもらうツアーのことを指します。Familiarization Trip(ファミリアライゼーション トリップ) の略で、下見招待旅行やモニターツアーとも言われています。
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クレア担当者の所感
クレアシンガポール事務所 所長補佐 今井 秀敏(北海道池田町より派遣)
記事配信元詳細
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代表取締役 西江肇司
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