2016年8月13日(土)はシンガポール人にとって歴史的な1日になりました。テレビでシンガポールの国歌「Majulah Singapura」が流れ、画面中央にシンガポール国旗が翻る光景をシンガポール人は熱狂的に見守りました。100mバタフライ 決勝で、アメリカの怪物マイケル・フェルプスを破りシンガポールに初めての 金メダルをもたらしたのは、弱冠21歳のシンガポール人ジョセフ・スクーリング選手でした。彼の偉業は国内に大きな喜びをもたらした一方、ある大きな問題にスポットがあたるきっかけにもなりました。
シンガポールには兵役制度があり、18歳以上の男性を対象に2年間の兵役が義務付けられています。兵役終了後も10年間は予備役として年間最長40日間の訓練を受けます。スクーリング選手は、2013年から今回のリオオリンピックが終了する2016年8月31日まで水泳に専念できるよう本人からの申請に基づき兵役が延期されていました。そして、今回の金メダル獲得を受け、8月15日、国防省は、 2020年東京オリンピックまでの更なる兵役延期の申請を承認した旨を発表しました。本来、進学以外の理由による兵役延期は認められていませんが、国際競争力があり、国家への貢献が期待できるスポーツ選手は、本人からの兵役延期の申請があれば、国防省が個別に判断し、兵役延期を承認しています。この措置に対して、スクーリング選手の兵役延期は当然だとする声がある一方 で、国民の義務である以上、進学以外の理由で兵役延期措置はとるべきではな いのではないかという意見もあります。兵役は、シンガポール人男性のアイデンティティを形成する一つの柱となっているからです。政府内でも、スポーツ振興政策を担当する社会・家族開発省から兵役延期についての明確な方針を定 める必要があるという声が上がっています。
世界に通用するスポーツ選手の育成と兵役義務とのバランスをどう考えていくのか、シンガポール人の関心が集まっています。
(シンガポール事務所所長補佐 押川)