一年を通して夏の気候が続くシンガポールでは、日中外を歩くのは厳しいですが、早朝に散歩していると、たまに結婚をする(した)カップルによる写真撮影の場面に遭遇することがあります。イギリス統治時代のコロニアル様式の建物や斬新な形をした現代建築物が多くあるため、格好の撮影場所なのでしょう。
シンガポールは、公用語を4つ持ち、中華系、マレー系、インド系、その他多くの人種が住む多民族多文化国家です。そのため、結婚式一つを取っても、その中身が民族によって異なります。
例えば、人口の大部分を占める中華系の結婚式は早朝、新郎が新婦の家を訪ねることから始まります。「Gate Crashing」と呼ばれる、新婦の元に進む新郎の行く手を邪魔する幾つものハードルを乗り越え、新婦の元にたどり着くと、新婦を連れて新郎の家に向かいます。そして、家族でお茶を飲んだ後、また新婦の家に戻り、同様にお茶を飲みます。この中華系独特の習慣は午前中に行われ、その後結婚式と披露宴が午後からホテル等で行われます。これらについては基本的に日本のものと同様ですが、結婚式を教会で挙げるのはキリスト教信者だけであること(信者以外はホテルに併設されている場所で挙式をする)、参加者が200~400名の大規模になることは大きく違う点として挙げられ、宗教や家族に対する考え方の違いを窺うことができます。
また、中華系に次いで人口の多いマレー系は自宅のある公営住宅(HDB)の下の共有スペースで結婚式を行い、その後ビュッフェ形式の食事をしながらお祝いをするのが一般的です。歌のパフォーマンスなどもあり、新郎新婦と特に面識がなくても様子を見ることができるため、非常に盛り上がります。また、参加者には小さな心遣いとして、ケーキやお菓子、飾り物などを最後に配るという、日本の引き出物に通じるような習慣もあります。
このように、「結婚式」という側面からも、シンガポールの多民族性を知ることができます。
一方、シンガポールは日本と同様に少子晩婚化といった問題を抱えており、2015年の合計特殊出生率は1.24と、日本の1.46をさらに下回っています。この状況を危機と捉えるシンガポール政府は、「SOCIAL DEVELOPMENT NETWORK(通称SDN)」と呼ばれる若者同士の出会いの場を提供していますが、政府の企画するイベントであり、「古い」「固い」といったイメージがあるため、集客率はあまり高くありません。
驚くことに、ICTの普及率が高いシンガポールでは、出会いのきっかけについても「アプリ」が大部分を占めます。日本でも少子化対策として、若者同士の出会いの場を提供する婚活イベントの開催や新婚カップルへのお祝い金助成などを行なっている自治体がありますが、こういったアプリなどのツールをうまく組み合わせていく必要性が今後出てくるかもしれません。
(シンガポール事務所所長補佐 朽網)