目的地をセットすれば、あとはただ座っているだけで車が勝手に送り届けてくれる、そんな夢のような話はすぐそこの未来に?
スマートネーションを標榜し、デジタルテクノロジーを活用して国民に新たな可能性を提供する取り組みを進めているシンガポールの自動運転車事情をご紹介します。
シンガポール陸上交通庁(LTA)はアメリカの「NuTonomy」と連携して、2016年8月からシンガポール中部にあるブオナビスタの科学技術パーク「ワンノース」で、自動運転車を使ったタクシーサービスの一般向け試験運行を開始しました。これは、ワンノース地区の住人から選ばれた人々が対象となっており、乗客は専用アプリで自動運転タクシーを呼び出し、無料で乗ることができるというものです。
「NuTonomy」によれば、自動運転タクシーが普及すれば、自家用車の台数が減り、現在シンガポール国内にある約90万台の自動車の数がおよそ30万台にまで減少することが見込まれるそうです。同社は2018年の商用化を目指し、現在も実証実験を続けています。
上記実験期間中の2016年10月16日に、自動運転タクシーが車線変更時に、隣を走行していたトラックに接触する事故を起こしました。幸い乗客は乗っておらず、運転席に座っていた「NuTonomy」の社員がハンドルを操作して重大事故を回避したとのことです。同社は、この事故の影響による2018年の実用化に向けた計画変更は行わないようですが、シンガポール政府はこの事故を受けて2017年2月に道路交通法を改正し、人の同乗の義務付けや走行試験の時間帯や場所の制限など、自動運転車の試験走行に関するルールを新たに定めました。
自動運転車は、渋滞緩和や人為的ミスによる事故が大きく減少するなど多くのメリットが期待されていますが、その一方で、法律整備や既存の交通ルールの見直しが必要であり、運用に至るまでの道のりは決して容易ではないでしょう。シンガポールが世界に先駆けるべく、これらの課題に対してどのように対応していくのか。世界中が注目しています。
(シンガポール事務所所長補佐 飛岡)