海外で働くために避けて通れないのが就労ビザの問題です。自分の学歴や職歴、 収入額等で就労ビザが取得できるかどうかは気になるところではないでしょうか。 今回はシンガポールの就労ビザ事情をお伝えします。
シンガポールにおける就労ビザには、Employment Pass(EP:管理・専門職向け)、 S Pass(中技能労働者向け)、Work Permit(港湾・建設などの単純労働者向け)などがあります。一般的には、EPを取得する必要があり、クレアシンガポール事務所に勤務する私たちもEPを保持しています。申請の際は、まず雇用者が企業庁 (Enterprise Singapore)に従業員登録を行うとともに、公式求人サイトJOBS BANK に求人情報を最低14日間掲載しなければなりません。その後、ようやく人材開発省(MOM:Ministry of Manpower)へEP申請を行います。そこから承認まではさらに3週間程度かかります。申請書類の準備や帯同家族のビザ手続きなどを含めると最低でも7週間以上はかかることになります。
現在、シンガポールの人口は約560万人ですが、そのうち定住外国人は約167万人おり、全人口の約30%を占めています。内、EP保持者は約11%、S Pass保持者は約11 %、Work Permit保持者は約44%となっています。
近年、シンガポールでは外国人のビザ取得要件が厳しくなってきており、2017年3月からは、申請から承認までの標準的な処理期間が1週間程度から3週間程度へ変更されるなど、審査に時間を要しています。
2013年には、「Fair Consideration Framework(FCF)」が発表され、外国人のビザ 申請前に、シンガポール人に対して公正公平に採用活動を行うという方針のもと、先述のJOBS BANKへの求人情報掲載が義務付けられました。
2014年からは、就労ビザ発給機関であるMOMが各企業に対して、個々に人材採用計画へ直接介入できるようになりました。
また、外国人就労ビザ規制政策として、2016年から「ウォッチリスト」の導入が始まり、2017年に本格化しました。ウォッチリストとは、シンガポール人の雇用、育成に消極的な企業をリスト化する政策で、一度リスト入りすると、改善されるまで 新規EPの発行や更新が難しくなります。
以下3つの要素において弱い”Triple Weak”と判断された企業はウォッチリストに掲載されます。
(1)全従業員に占めるシンガポール国民及び永住権保持者(シンガポール国民等)の割合
(2)(1)が低い場合、将来的にシンガポール国民中心となるような人事面での企業努力
(3)シンガポールへの経済・社会的貢献度
同リストには、2017年2月時点で250社、10月時点で300社が載っているとのことで、 外国人の就労ビザ取得を取り巻く現状を如実に表していると言えます。
シンガポールでは、シンガポール国民等の失業率が4.0~4.2%あり、ある程度の年齢と経験を持った、経済の中核を成すはずの人々が失業しています。シンガポール政府としては、シンガポール国民等に対する外国人の比率を一定にしておきたい (シンガポール国民等:外国人=2:1)ようですが、シンガポール国民等の就業者が増えないため全体も増やしていけないといった状況です。
1990年代までは外国人労働者の積極的な受け入れにより経済成長してきたシンガポ ールですが、2010年頃から、労働生産性の向上による持続的な経済成長を目指すため、外国人受入政策の見直しを進めています。
2013 年1月の人口白書において、シンガポール政府は、外国人労働者の受け入れを規制するとともに、シンガポール人労働者のスキルを向上させ、特に専門職や管理職の業務を中心に労働力基盤を強化する指針「Strong Singaporean Core」を発表しました。
政府はこの指針に沿って、シンガポール人の雇用促進、外国人従業員の雇用の引き締めと作業の効率化、高齢者再雇用支援、雇用に係る政府補助金の支給、キャリアアップ・サポートプログラムの強化など、シンガポール人の雇用促進政策を強化させています。
就労ビザに限らず、観光ビザや商用ビザの取得条件や申請方法は国によって様々で す。インバウンド観光誘致や海外販路開拓により海外進出が盛んになっている昨今、 国によっては突然基準が変更になる場合もありますので、こまめに情報を確認するなど、各国のビザ事情には十分に注意する必要があります。
シンガポール事務所 所長補佐 能村