クレア・シンガポール事務所は、2014年5月19日、東京の都道府県会館において、シンガポール政府及び現地でeコマース(Electronic commerce:電子商取引)に取り組む企業関係者、自治体のシンガポール駐在経験者を招いて、各分野での最新の取組状況を紹介し、自治体が地元企業の海外展開支援を考えるうえでヒントとなる情報を提供するセミナーを開催しました。
セミナーの内容について3回に分け報告します。第1回目はシンガポールに拠点を置く楽天アジアの森谷氏の講演です。
市場調査会社ユーロモニターによると、東南アジアeコマース市場規模は、国土が狭く近隣諸国と比べ人口が少ないにも拘わらず今後5年間においてシンガポールが最も大きく、続いてタイ、フィリピン、マレーシア、そして東南アジアで人口が最も多いインドネシアの順になると予想されています。現在のシンガポールの市場は日本の市場の1/100の約600億円程度ですが、2016年には1,000億円を超えると言われています。スマートフォンの普及率は78%で、日本の50%と比べて高いのが特徴です。Wi-Fiの整備も進んでおり、地下鉄など至る所で接続できる環境が整っています。これらのインターネット環境が充実しているため、スマートフォン等を通してポケットの中にインターネットショッピングの入口があると言えます。
ある調査によると、シンガポール在住の人々は1カ月の間におよそ5時間をオンラインショッピングに費やしており、およそS$180ドルを消費するとのことです。この状況は2003年から2004年くらいの日本と同レベルの水準であり、ネットを介して商品を買うスタイルが一般的に普及しているとはまだ言えませんが、スマートフォンの普及率が非常に高く、所得水準も高いため、今後市場が大きく成長することが期待されています。
楽天アジアは、今年1月にeコマースのサービスである楽天シンガポールを本格的に開始したばかりですが、現在の購買層は、働き盛りの若い女性や、小さい子供がいる母親の世代が多い傾向にあり、利用者の7割を女性が占めています。また、日本人以外の利用者が圧倒的に多く、約9割を地元のシンガポール人や周辺国のマレーシア人、インドネシア人等が占めています。また客単価の平均はシンガポールでは約S$100(約8,000円)と高めなのが特徴です。
楽天のサイトに訪れるきっかけについては、Webの検索やSNS(フェイスブック、LINE、微博)など多岐に渡っています。シンガポールには異なる多くの人種の方がいるため、様々な種類のSNSを用意することが新規の顧客の開拓につながるようです。スマートフォンやタブレットの普及率が高いので、およそ3割の注文がそれらを経由して入っているとのことです。
楽天シンガポールでは健康食品・サプリメントや調理器具などのアイデア商品、おむつ、お米やカニなどの食材などが売れ筋商品となっています。こういった商品はどこにでも売っていそうですが、実は現地ではなかなか手に入れることができません。シンガポールは人口が少なく、マーケットが小さいというイメージがあって、大手の企業はメジャーな商品しか販売しないという面もあり、かゆいところに手が届くという商品は意外と手に入らないため、特にアイデアグッズは楽天シンガポールにおいて人気があるようです。日本の100円ショップ(シンガポールでは2ドルショップ)もシンガポールに数店舗展開していますが、常に大盛況です。
また、シンガポールにおいては日本の商品に対する好感度が高いのも一つの特徴です。
日本国外の消費者に対して日本の文化・日本の商品の魅力をどのように伝えていくかは重要なポイントです。日本の伝統的な工芸品とか特産品の売り込み方法に関して、例えば着物等を販売したい場合、単なる商品の説明だけでは中々受け入れられることが難しいようですが、ある楽天の出店者がコスプレという形で売り出したところ反応が良かったようです。また陶磁器を扱う出店社が、食器をインテリア(アクセサリー置き等)として販売したところ、消費者の関心を得たとのことでした。少し視点を変えてどのようにすればシンガポールの消費者が商品をイメージしやすいだろうといった点を注意しながら売り込んでいくことが大切と思われます。
また配達方法の一つをとっても、出店者が丁寧な梱包など日本では普通のことをやるだけで海外の消費者に好印象を与えることができます。細かいところでも気を配れる日本の精神は、海外での商売において強みになると言えます。
日本の企業が海外に商品を輸出する際の方法としては大きく分けて二つのパターンがあります。一つ目は現地に拠点を持つ企業と組んで日本から輸出手続きをした上で、現地で販売を行う方法。二つ目は日本から直接国際郵便等を使い、商品をお客さんにダイレクトに届ける方法です。いずれの方法も手続きやコスト面で中小の事業者の方が新規に事業を立ち上げるにはハードルがあります。楽天はシンガポールにeコマースのWebサイトを立ち上げており、日本企業は新たなパートナーを探したり、現地に法人を設立したりすることなく日本にいながら楽天のサイトに出店することが出来ます。また日本からシンガポールに商品を送る物流の課題に対しては、専用便を設けて各日本の企業からの荷物を混載する方法をとること等により、荷物1個あたり300円という格安送料を実現しています。
農産品をはじめ物産を海外に売り出していこうとする動きはますます大きな関心を集めていますが、いざ実際に売り込むとなると現地の法人との取引や小売店と組んで催事を行う際には手続き的にも金銭的にも高いコストがかかります。また一度催事を開催しても、その後のフォローや継続性を確保することは容易ではありません。
そこで今後の展開としては、実際に催事を行う際に同時に楽天の持つネットのソリューションをうまく組み合わせて連携することもポイントとなってきます。例えば、自治体が海外進出を希望する企業を募って催事を行う場合には、単独ではなく広域的に連携してテーマ別・商材別に催事を企画すると同時に、楽天市場にも出店してもらうことにより、催事の持つ効果を一過性のものに終わらせることなく、またその後も大きなコストをかけることなく継続して販売をすることが可能になります。これは一つの例ですが、自治体等が関係する催事と、eコマースが互いの持つ強みを発揮しつつ、弱みを補える関係を築くことができるようになるのではないでしょうか。
また、楽天アジアは現在シンガポール国内の基盤を構築していますが、そこをハブとして周辺国への展開も模索しており、将来的に環境が整えば、進出が困難な新興国市場へのアクセスも期待できるようになります。
近年、東南アジア市場のプレゼンスは高まっており、日本の自治体による東南アジアへの特産品のプロモーションが活発になっています。一方で、予算や人員等の制約もあり、継続性という点で課題を抱えているケースも少なくありません。企業も物流や販路確保といった課題にたびたび直面しています。その解決策の一つとしてeコマースを活用したインターネット上での販売は有効な手段であり、物流やインターネットへのアクセス環境が整っているシンガポールはまさに絶好の市場となる可能性を持っていると感じました。
(宮﨑所長補佐 佐賀県派遣)